小説に限らず、物語には「伏線」が張り巡らされている。このエントリでは小説家がどんなことを考えながら伏線を張っているのか、それについて見ていこう。
そもそも伏線とは
そもそも伏線とはなんだろうか。辞書的な意味では、後に起きる出来事に備えて、何かをほのめかすことだ。
たとえば、とある作品では「僕は軟水しか飲めないんです。メールしましたよね」ときつく当たるキャラクターが出てくるが、これは後に硬水を飲んで腹を下すことの伏線になる。
この「僕は軟水しか飲めないんです。メールしましたよね」の描写があるから、視聴者は彼が硬水を飲んで腹を下した後、「ああ、彼は硬水を飲んだから腹を下したのだな」とすっと了解、納得する。
この伏線部分の描写がなかったら、「なぜいきなり腹を壊すのだ?」と視聴者の頭には疑問符が浮かぶこととなる。
伏線の本質
伏線の本質的な意味は、「いいわけ」だ。小説家はいいわけをするために伏線を張る。
なんのいいわけか? それが起きるべくして起きたことであるということの、だ。
どこかで読んだのだが、「小説家はすべての行で読者を説得していかないといけない」と誰かがいっていた。
伏線はその説得のための一つの武器になる。その事件が起きた理由、その事件が解決した理由、それを納得させるために伏線を利用して、事前に仕込みをしておく。
伏線の種類
伏線の本質は「いいわけ」である。それが起きるべくして起きたのだということを納得してもらうために準備するいいわけだ。
そして、ここでいう「それ」の種類により、伏線が二つに分類できる。こんな分類だ。
- トラブル誘発型
- トラブル解決型
聞いたことはないだろうか。ないだろう。あるわけがない。例によって例のごとく、たった今、僕=くれあきらが作ったのだから。
では見ていこう。
トラブル誘発型
あるトラブルが起きる時、それが起きるべくして起きたものなのだと言うことを納得してもらうためのほのめかしをするのが、トラブル誘発型の伏線だ。
具体的には、先にあげた軟水、硬水の話がそれにあたる。問題が起きた時、「なんでいきなりその問題が起きるの?」となるのではなく、「なるほど、そういうことなら確かに問題が起きる」と読者に納得してもらうことが、トラブル誘発型の伏線を張る目的だ。
逆に言うと、このタイプの伏線を張ったら、後でなんらかのトラブルを起こす必要がある。
後に引き起こされるトラブルが笑えるものである場合、伏線はシリアスである方が良い。その方が、のちのトラブルの笑いとのギャップを強調でき、トラブルが一層笑えるものとなる。
芸人が「押すなよ、押すなよ」と言っているのも、このパターンと言えるだろう。押すなよが真剣であるほど笑えるのは、感覚的に理解できるかと思う。
ちなみに、次に説明するトラブル解決型の伏線と違って、こちらのトラブル誘発型の伏線は、伏線であることがバレバレでも有効に働く。
なにしろ、物語というものは、トラブルが簡単に解決することにはめっぽうシビアだが、トラブルが簡単に起きることに対しては驚くほど寛容なのだ。
トラブル解決型
あるトラブルや問題が解決される時、その解決方法に「なるほど、それならうまく解決しそうだ」と納得感を与えるのが、トラブル解決型の伏線だ。
これは、例えば赤鼻のトナカイをイメージしてもらうと良いだろう。
真っ赤なお鼻のトナカイは笑い者として描かれるが、その後その鼻があるがゆえに、サンタクロースの役に立つ。つまり、笑いのネタであった赤鼻が問題解決につながる。
トラブル解決型の伏線を張る時の注意点としては、その伏線に使われるネタが、いかにも問題を解決しそうなものであってはならない、ということだ。
なんでも直す万能薬を作った、という伏線を張り、それを使って難病のヒロインの病を治すとなると、「いやいや、確かにそれは治るだろうけれど、当たり前すぎるだろう(苦笑)」となる。つまり、現実的なトラブル解決方法であったとしても、読者は納得しない。
なぜか。当たり前のことを当たり前にこなしていくということを追いかけるために、人は物語を読んでいるわけではないからだ。意外な解決をしない物語に、物語としての価値はない。
だから、小説家は、トラブル解決型の伏線を張るときには、できるだけその伏線が問題を解決しそうにないものにしようとする。できればギャグやジョークに紛れさせようとする。
おわりに
というわけで、伏線について書いてみた。キミの伏線がより良くなることの助力になれば幸いである。
活用されたし。
ライトノベル作家。
商業作家としての名義は「くれあきら」とは別。今は主にブログで小説にまつわるアレコレを配信中。デビューから商業作家時代の話を「今、小説家になるために必要なもの(1)」に書いてます。