なぜ小説家は主人公を成長させようとするのか

今回のテーマは成長だ。

小説家は物語を作るとき、無意識に主人公をなんらかの形で成長させようとする。

果たして、なぜ小説家は主人公を成長させようとするのか。そして、どのように成長させるのか。このエントリではそのあたりを見ていこう。

主人公の成長について

小説の主人公は大抵成長する。だが、主人公が成長しない物語だって存在する。むしろ主人公が成長しない物語の方が、名前がすぐ上がるだろう。

例えば、サザエさん、水戸黄門、ドラえもん、ちびまる子ちゃん、アンパンマンなどなど。

これらの主人公は基本的に心身ともに成長せず、永遠に同じ日を繰り返しているかのように、何も変わらない。

カツオはいたずらをしてはサザエに怒られ続け、水戸のご老公はずっと悪代官を成敗し続け、のび太はジャイアンにいじめられてドラえもんにすがり続ける(映画版ドラえもんは少し事情が違うけれど)。

それでも物語は成立する。ラインナップを見ても分かる通り、物語の主人公たちに成長のあとが見られないこれらの物語は、どれも多くの国民に支持されている、いわば国民的作品だ。

つまり、主人公が成長しなくとも、素晴らしい作品は作ることができる。

ではなぜ小説家はあえて主人公を成長させるのか。なぜそんな茨の道を通ろうとするのか。成長しなくても成立するなら、成長しなくても良いではないか。

当然、主人公が成長する物語を書く意味やメリットがあるからこそ、小説家はそれを書くのだ。

では、そのメリットとは何だろうか。

主人公を成長させるメリット

小説家が主人公を成長させるのは、ドラマを作ろうとするとき、そうしないと都合が悪いからだ。そして、そうした方が都合が良いからだ。

つまり、ネガティブな理由とポジティブな理由の両方がある。

ネガティブな理由

主人公の心の動きは、例外を除いて読者とシンクロする。主人公が危機に陥れば読者も危機感を感じるし、主人公に驚くべきことが起きたら読者も驚く。

だから、ドラマを作り、読者の心を動かそうとすると、必然的に主人公も何かに心を揺り動かされる必要が出てくる。それは人の死だったり、愛だったり、怒りだったり。

そのドラマの中で生まれた主人公の感情と、そこで感じた気づきと、結果としての変化が、言ってしまえば主人公の成長に他ならない。

仮に、語るに値するドラマがあり、人生観を変えるような出来事があり、それでも主人公が何一つ学ばない、何一つ変化しないとなると、どうなるか。

読者と主人公の感情に温度感が発生し、読者は違和感を覚える。主人公が冷徹な人間か、バカに映ってしまう。

だからドラマを作るなら主人公を成長させないと具合が悪い。

逆説的に、主人公たちが成長しないサザエさん的物語は、人の感情を揺さぶるようなドラマが発生しない。発生しえない。

ポジティブな理由

ネガティブな側面を見たけれど、主人公を成長させるポジティブな理由もある。

主人公を成長させるドラマを作るとしたら、小説家は主人公に苦労を強いるイベントと、それを克服するイベントを物語の中に入れようとする。

物語に太い補助線が引かれることになるので、物語が書きやすくなるのだ。

そして、その補助線に従って書かれた小説は、躍動感と変化が与えられる。躍動感と変化を得た小説は、読者に緊張感と興奮を与える。

サザエさんを見て、手に汗握る人はいない。サザエさんの面白さは安定したパターンにあるのであって、ドラマチックな展開にあるわけじゃない。そういうことだ。

成長の種類

では、ここで話が上がっている主人公の成長とはどのようなものだろうか。

大きくは二つある。こんなものだ。

  • 独り立ちする成長
  • 自分の弱さを認める成長

それぞれ説明しよう。

独り立ちする成長

独り立ちする成長とは、少年漫画的なヒロイックファンタジーによく使われるタイプの成長だ。

最初は貧弱な主人公が、仲間や師匠にものを教わり、敵を倒すことができるようになる。そして最後には、人の力を借りずに敵を倒すことができるようになる。

この成長を採用する物語では、主人公は若く、未熟な人間である場合が多い。

自分の弱さを認める成長

自分の弱さを認めるタイプの成長とは、家族ものやバディものの物語によく使われる成長だ。

一人であればそれなりにこなせる主人公が、家族や相棒と何かを成し遂げようとしたら対立してしまってうまくいかない。

しかし、自分の弱さや至らないところを認め、相手の良いところを認める。

そして信頼関係を築き、二人で、もしくは家族で一つのことを成し遂げる。

この成長を採用する物語では、主人公は成熟した大人である場合が多い。あるいは、若くても天才的な能力を持っている人間も、このタイプの成長をしうる。

おわりに

というわけで、小説家が主人公を成長させる理由と、その成長のさせ方のタイプを見てみた。表にまとめて振り返ってみよう。

主人公を成長させるかどうか、させるとしたらどのようにさせるか。一度立ち止まって考えてみるのも良いだろう。

活用されたし。

ライトノベル作家。
商業作家としての名義は「くれあきら」とは別。今は主にブログで小説にまつわるアレコレを配信中。デビューから商業作家時代の話を「今、小説家になるために必要なもの(1)」に書いてます。