プロ&プロ志望者にとって梗概が重要ないくつかの理由

キミは梗概を書いたことがあるだろうか。本編の小説を何百字かにまとめた、あらすじのような、あれ・・だ。どこかの小説賞に応募したことがあるなら、書いたことがあるだろう。

作品の出来が良いはずなのに、キミの小説が毎度落選しているとしたら、梗概にも意識を向けた方が良いかもしれない。

今回は、そんな梗概の重要性について語ろうと思う。

梗概とは

先に述べたように、梗概というのは「本編の小説を何百字かにまとめたもの」だ。200字だったり、400字だったり、そのあたりは違いが色々あるだろう。

短い文字数で小説全体をまとめる必要があることに、苦労している人も多いだろう。

こんな文字数で自分の作品を語ることなどできない、本文を読んでくれれば面白いことは伝わるはずだ、そんな思いから梗概を適当に書いている人も、ひょっとしたらいるかも知れない。

しかし、この梗概は手を抜かない方が良い。出版社の新人賞を受賞して小説家になりたい、とオールドスタイルでロートルな考え方をしている人であれば特に、梗概は大切にすべきだろう。

梗概はプロになる段階、つまりデビューするためにも重要な意味を持っているし、プロになってからも梗概の技術は重要な意味を持ち続ける。

では、梗概はなぜ重要なのか。そしてどう重要なのか。見ていこう。

編集者は梗概のどこを見ているか

下読みと呼ばれる人たちがどのように小説を読んでいるのか、正直のところ僕には分からない。しかし、プロの編集者は、あの梗概を結構しっかりと読む。そのことは知っている。

どんなところに注意をして見るのか。だいたい、こんなことを注意して見ると思ってもらえれば良いだろう。

  1. 最初から最後(オチ)まで書いてあるか
  2. 状況がわかるように書いてあるか
  3. 売りとなるポイントがわかるように書いてあるか

一つずつ見ていくとしよう。

最初から最後(オチ)まで書いてあるか

「最初から最後(オチ)まで書いてあるか」がポイントとなるということは、逆にいうと「オチが書いていない」梗概が存在するということに他ならない。

つまり、「窮地に立たされた主人公の運命は――」とか「その時、誰それが現れて――」とか「主人公はヒロインのピンチを救うべく、危険を顧みず谷に飛び込むのだった――」みたいな、これからまだ話が続く前提の梗概だ。

これはいただけない。

何がいただけないかというと、編集者は梗概で「話が成立しているかどうか」をチェックするのだ。全体像を書かないと、そのチェックができない。

「本文に興味を持ってもらうためにそうしているんです」と言いたいかも知れない。そして「だから続きは本文を読んでくださいよ」と思うかも知れない。

でも、(これはプロになった後の話だが)作家と編集者のやり取りは、この梗概レベルの企画が飛び交う。

一ヶ月に何十もの企画をやり取りし、その中で面白そうなものがあればもう少し膨らまして見て、そしてボツをくらって、また企画を出して、そんなことが延々と行われる。

だから、「主人公の運命やいかに――」とか言っている場合ではないのだ。

結論を、オチをしっかりと書き、その物語が成立しているのか、その物語がどのような面白さを孕んでいるのか、どのように面白く展開できるのか、そういったことを編集者は考える。

手の内は梗概の段階で全部明かしておく必要がある。ライトノベルの編集者に限って言えば、多分キミが思っているよりもずっと作品作りに口を出すし、アイデアも出す。

手のうちを明かそうとしないその梗概の書き方に、編集者は「ビジネスパートナーとしてこの作家をチョイスして良いのだろうか?」と疑念を持つ……と言ってしまうとおおげさだけど、少なくとも僕が編集者だったらそう思う。ズバリ、よける。

状況がわかるように書いてあるか

これは単純に5W1Hを意識したり、梗概に記された文章の因果関係や論理展開を意識したりしてもらえれば良い。短い文章の中でそれをしっかりこなすことは難しいのだけれど、やってもらう他ない。

梗概は、何はともあれ全体像がつかめることが重要だ。だから、面白さを伝えることよりも、まずはざっくりとした世界観と、その中でどんなタイプのドラマが繰り広げられるか、を確実に伝えることに注力してもらった方が良いだろう。

梗概で面白さを伝えられないとしても、ドラマとして成立するか、面白くなりうるかは、大抵の編集者であれば、折り目正しく書かれた梗概を読めば分かる。

売りとなるポイントがわかるように書いてあるか

梗概で興味を持ってもらうとしたら、その作品の新規性や奇抜さ、つまりはウリとなるポイントがどこなのか、それが一言でわかるようにした方が良い。そうした方がずっと編集者の目にとまる。

例えば、梗概の冒頭に、「なにがしとなにがしが繰り広げる現代版なにがし」みたいな、その作品のアウトラインと面白さがバシッとわかるようなものがあると良いかもしれない。

プロになった後の梗概

先に述べた通り、プロになった後でも、梗概レベルの短い文章で企画を書き、編集者とやり取りをする。編集者にもよるけれど、かなりの数の梗概を書く覚悟が必要になる。

だから、梗概を書く技術は必須科目だ。

ちなみに、プロになる前とプロになった後では、先の1から3のうち、どこに力を入れるべきか、その優先順位が変わる。

プロになる前は1、2、3の順番だ。ウリとなるポイントについては、梗概の中に練りこまれていなくても、本文中に売りがあればそれで良い。売りとなるキーワードは、編集者と一緒に考えていけばいい。

しかし、プロになったらとにもかくにも3「売りとなるポイントがわかるように書いてあるか」だ。その小説を書く前に、その小説を書く意味があることを、強く訴える必要がある。

そうしないと執筆が始まらない。

ウリや面白さをズバッと訴えて、「これでいきましょう」とコミットまで持っていく必要がある。

編集者が面白いと思わなければ、企画は動き出さないのだ。

おわりに

というわけで、梗概の重要性を説いてみた。

よくまとまった梗概を、編集者はよく覚えている。梗概でストーリーが綺麗に伝えられれば、それだけで印象に残るし、「一緒に仕事をしても良いかも」と編集者に思わせることができるかもしれない。

梗概が果たすべき目的を理解し、それを活かしていくことをお勧めする。

キミが出版社の新人賞からデビューしたいと思っているロートルでオールドスタイルな人なら、間違っても梗概で、「そして主人公は谷に飛び込むのだが――」なんてしないように。

活用されたし。