小説の書き方(意識編)

このエントリを読んでいるということは、おそらくキミは小説を書きたいと思っている人だろう。あるいは、もうすでに何本かの小説を書いているのかもしれない。

ここでは、僕が実践し、そしてデビューするに至った小説の書き方を記そうと思う。キミの肌に合うかは分からないが、一つの方法として覚えておいてもらいたい。

手法について

僕が実践した小説の執筆方法は、一言で言えばこういうことになる。

リバースエンジニアリングを使って小説を書く。

リバースエンジニアリングとは、コンピュータの世界でよく使われる分析手法のことだ。

なんのことかサッパリ分からない? まあそうだろう。当然説明が必要だ。少しかみ砕いて話をしていこうと思う。

リバースエンジニアリングとは

Wikipediaでリバースエンジニアリングを調べてみると、こう出てくる。

リバースエンジニアリング(Reverse engineeringから。直訳すれば逆行工学という意味)とは、機械を分解したり、製品の動作を観察したり、ソフトウェアの動作を解析するなどして、製品の構造を分析し、そこから製造方法や動作原理、設計図などの仕様やソースコードなどを調査することを指す。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

料理に例えていうと、お店で食べた美味しい料理をじっくりと味わい、その料理がどのように作られているかを自分の舌で分析して、レシピに起こす、というもの。レシピからレシピ通りに料理を作ることとは真逆の行動と言えるだろう。

小説に当てはめて言ってみると、キミのお気に入りの作品を一つ取り出して、その面白さを分析し、そしてその成分(レシピ)を使って自分の小説を書く、というところだ。

逆に、「物語というものは主人公がなんらかの理由で旅立ち、困難に出くわし、協力者の力を借りてそれを乗り越え、最終的に自分の力で目的を達成する」みたいな大枠の話を具体化し、肉付けをしていく方法もある。これはレシピ通りに料理を作っていくことに相当する小説執筆手法だ。

一般的な手順

リバースエンジニアリングで小説を書く手順は、以下のようになる。

  1. キミのお気に入りの小説(「こんな小説が書きたい」と思える小説)を一冊選ぶ。
  2. キミ自身が、なぜその小説を気に入っているのか、キミが心を動かされた場所はどこかを小説の中から探し出す。
  3. 探し出したその感動ポイントが、なぜ感動を自分に与えているのか、その仕組みを分析する。
  4. その仕組みの分析結果を、自分の作品に活かせるよう、一般化する。

そして、その一般化した感動ポイントを盛り込みながら、キミ自身の小説を組み立てていくことで、キミのお気に入りの作品のエッセンスを自作に取り込むのだ。

具体的な方法

先に書いたリバースエンジニアリングの手順のうち、1番目(お気に入りの一冊を選ぶこと)と、2番目(その小説の感動ポイントを示すこと)は、それほど難しくはないだろう。

しかし、3番目以降、その感動ポイントがどうしてキミを感動させているのか、それを分析してエッセンスを取り出すのは少し難しい。体得するにも時間がかかるだろう。

そこで、分析とエッセンスの抽出と一般化の工程は、例えば別エントリ「切なさの作り方」を一読してもらうと、どんな風に行うものなのか、イメージがつくはずだ。分析のヒントになるだろう。

そのエントリで僕は映画「ローマの休日」とOVA「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」を例に取り、これらの作品を見たときに感じる切なさがどのような仕掛けによって生み出されているのか、分析をしている。

あるいは、別のエントリ「小説家がどうってことない言葉を輝かせる方法」では、カート・ヴォネガットの「タイタンの妖女」と伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」を例に取り、これらの作品のどこが感動をもたらすのか、それはどのような仕掛けによって実現されているのかを示している。こちらも分析の方法の参考にしてもらえると思う。

いずれの作品も素晴らしいので、未鑑賞の場合にはぜひ鑑賞してもらいたい。その上で先のエントリを読んでもらえば、僕の解説が一層理解できるはずだ。

分析の具体的な手法については、「創作に活かす小説の読み方」にその段取りを示してみたので、合わせてチェックすることをオススメする。

上に記したエントリや、その他のエントリを参考にしつつ、キミのお気に入りの一冊に対してキミなりの分析とエッセンスの抽出と一般化をしてみてもらいたい。

よりどころとなるもの

お気に入りの作品の感動ポイントのエッセンスを抽出して一般化し、自作に取り込むーーなどと言っても、そんなに簡単にいかないことは分かっている。

しかし、多分これが一番の王道だと僕は思う。オーソドックスな物語の枠組みに従って小説を書くにしても、キミなりの感動ポイントのエッセンスが入っているのといないのでは、出来上がりが全然違う。魂のこもり具合が全然違うのだ。

自分が書いた小説が果たして面白いのか、受け入れてもらえるか、不安だろう。

だけど、それは多くのプロも同じだ。作品を書いてそれが受け入れてもらえるか、正直不安だ。それはきっと、何作書いても変わらない。

そんな時、唯一頼りになるのが、自分自身の感情だ。

自分自身が自分の作品で泣ける。笑える。ワクワクできる。これほど心強いものはない。

キミ自身の「あの作品のあのシーンで感動した」という事実は、絶対に間違いはない。キミが感じたその感動は、少なくともキミにとっては、間違いなく正解だ。

そのエッセンスを、キミ自身の作品に取り込むことで、キミの作品はどこかの誰かを別の形で感動させるだろう。キミと波長の合う、どこかの誰かを。

注意点について

リバースエンジニアリングの手法を使うにあたって、一つ注意が必要な点がある。

感動したポイントを自身の作品に取り込む、とは言っても、もしその感動ポイントが描写だったり言い回しだったりキャラクターだったりしたら、対処が難しい。

台詞回しやキャラクターは真似がすぐにバレるし、罵りの対象になりやすい。そして、言い回しやキャラクターこそ、小説家は自分ならではのオリジナルを貫かないといけない部分だろう。

だから、うまいことエッセンスを取り出して一般化をすることができればしめたものだが、これに関しては安易に人の真似をしない方が良い。時間をかけても、自分なりのやり方を追求すべきだ。

おわりに

というわけで、小説の書き方としてリバースエンジニアリングを紹介した。

実を言えば、このブログ「小説家の手のうち」自体も、リバースエンジニアリングの手法を使って書かれている。題材は、僕が心を動かされた作品からもらっていることがほとんどだ。

その題材は、テクニックが主になることもあれば(カテゴリ「小説を書くためのテクニック」)、作品が主になることもある(カテゴリ「あの作品で使われている物語技法」)。

ただ、いずれにしても、プロが現場で実際に使っている、心打たれるシーンの裏側に潜んでいる手法を紹介していることに変わりはない。

「好きこそものの上手なれ」というように、好きというのは武器になる。好きな作品のエッセンスを借用し、キミならではのオリジナルに仕立て上げて、世に発表してもらいたい。キミが感動したエッセンスがキミ自身の作品に入っていれば、きっとどこかの誰かに響くはずだ。

そう。かのジャズピアニストの山下洋輔も(確か)こう言っている。

「感情は100%正しい」

なんという言葉だろう。僕も100%そう思う。

だから、キミがいいと思ったら、それは間違いなく良い。それだけは絶対だ。

情熱的に感じ、冷静に分析し、自身の作品に活かす。そのサイクルがキミの作品をより素晴らしいものに磨き上げることだろう。

活用されたし。