今、小説家になるために必要なもの(1):デビューに必要不可欠なものは?

僕という作家

出版冊数、六冊。
作家としての収入、約五百万。
重版がかかった回数、のべ三回(二回が一冊、一回が一冊)。
出版業界という名の戦地に赴いていた期間、約五年。

――これが、僕の小説家としての戦績だ。

もう少し言えば、僕、くれあきらが、別の名義で作家として活動をしていた時に出した本の冊数と、稼いだお金の額だ(受賞の賞金は金額を言うとアレなので除いている)。

僕はライトノベルの新人賞からデビューをして、平均して一年間に一冊本を出し、一冊あたり単純平均80万ほどの金を手にした。いくらかフェイクが入っているが、大きく違いはない。

この数字を聞いてキミたちはどう思うだろう。

スゴい? ショボい? 分からない?

僕からすれば、ショボい。スゴくショボい。時給に換算するとたぶん百円程度、いくらなんでも無惨すぎる。

それでも結局六冊も書いたという事態に、我ながら呆れてしまう。

作家たちの生態系

そんな僕でも、一冊あたりの出版社への売り上げ貢献度は、おそらく真ん中くらいだろう。なにしろ、本が売れない昨今に、見事に重版がかかっているのだから。

そう、出版社への貢献度は、だいたい真ん中。

なんという真ん中!
売り上げ額自体は最下位の作家とほとんど違わない。

残念ながらこれはジョークでも誇張でもない。実際作家の収入分布図はこんなものだ。

一冊で一千万円以上稼ぐ作家は、確かに存在する。けどそれは本当にごく一部、一握りの作家だけだ。作家ヒエラルキーの上位10パーセントに入ったところで、売り上げはたかがしれている。

今、大体の新刊小説は初版で終わる。重版がかかる本なんて、新刊の十冊に一冊か二冊あれば良い方だ。ベテランでさえも以前のようには売れない。

名の知れていない新人だと、なおさら売れない。新人賞を取って大々的にプロモーションをやってもらったとしても、お察しだ。

悲しい事に、内容の善し悪しはほとんど関係しない。もしキミが今後どこかの出版社の新人賞で賞を取り、めでたくデビューをするとしたら、そんな現実を目の当たりにするだろう。

あまりにも売れないという現実を。100パーセント、間違いなく。

このカテゴリについて

このカテゴリに記すのは、小説業界という名の戦場に広がっている風景と、そこで生き抜くためのスキルだ。

勘違いしないでほしい。僕がキミたちに伝えることが出来るのは、敵の大将の首を狩るような技じゃない。つまり、売れっ子作家になるためのスキルじゃない。

そんなものを持っているなら、僕自身がとっくに売れっ子になっている。

ここに載っているのは、もっと地を這い床をなめるようなスキル、例えば兵士は戦場に送り込まれる前にどんな訓練を受けるとか、戦場のどこに地雷が埋まっていて、どの角度から流れ弾が飛んできがちなのかとか、戦場の地形や武器倉庫の場所とか、兵士の死体はどう処分されるのかとか、そういう話だ。

小説に当てはめて言えば、編集者がどんな視点で作品を見て、どんなコメントを返してくるのだとか、編集が通しやすい企画の考え方とか、執筆の時、何に注意するべきだとか、出版業界の現状とか、それから作家が筆を折る理由とか――

そんなあれこれを、戦場に出る前のキミたちに伝えたいと思う。戦場に出て初日で死なないように、出来るだけ長く生き残るように。

つまりこれは、小説出版業界の前線報告だ。これから戦地に赴く兵士たちに向けて、戦地で負傷した三等兵が野戦病院で綴った手記だ。

ターゲットは時代錯誤なハイワナビ

本カテゴリがターゲットとする読者は、いわゆるハイワナビと言われる、商業ベースの新人賞を受賞しそうな人々。あるいは、いつかは受賞をするつもりの人々。

そんな小説界の未来を担う人々に、この手記を読んでもらいたい。

このカテゴリのターゲットが誰なのか、もう少しズバリと言おう。

新人賞への応募数は、大抵年々減少している。小説業界が市場として魅力がなくなってきている現れだ。若きクリエイターはそっぽを向いて他の市場に目を向けている。

こんな世情において、それでもなお小説の新人賞に応募をし、編集者に実力を認められ、プロの作家になろうとしている、そんな時代錯誤とも言える人々こそ、このカテゴリのターゲット読者層だ。

デビューを目指すキミたちにもっとも必要なものは

さて。
キミたちが今後小説家デビューを果たし、生き残ろうという覚悟があるなら、肝に銘じておかなくてはならない言葉がある。それは果てしなくシンプルな、こんな言葉だ。

デビューを目指すキミたちにもっとも必要なのは、□□□である

キミならどんな言葉をに入れるだろう?

努力、体力、時の運、構成力、演出力、筆の速さ、継続力、魅力的なキャラが書ける事、本をスケジュール通りに書けること、諦めない力、サービス精神、こだわる力、割り切る力……キミが考えたその言葉は、たとえそれが何であれ、おそらく正解だ。

だけど、僕の答えは多分キミが今思い描いている答えとは違う。少なくとも、デビュー前の人たちには思いもよらない答えだろう。

特に、新人賞を受賞してデビューしようなどという、ロートルな発想を持っている作家予備軍にとっては。僕もデビューをする前にはこの現実をまったく知らなかった。考えもしなかった。

ひと昔前は違った。□□□はデビューを成功で飾るための絶対条件じゃなかった。

でも今は、このがないと勝負にならない。僕は小説業界のルールが変わりつつあることに、あまりにも無頓着だった、そう言っても良いと思う。

このカテゴリは、言うなれば、この解を巡るミステリーだ。読み進めることで、キミはその答えを手に入れる。その時、小説業界という戦場で生き残るための心構えも身に付いているはずだ。

ここには、今の世の中で小説家になるにあたって、知っておかないといけないことが書いてある。

先にも少し触れた通り、内容にはいくらかフェイクを挟んでいる。けれど、それは本質的じゃない。大筋は変わらない。

大丈夫、損はさせない。小説家になりたいなら、そして僕と同じ道を歩みたくないなら、このカテゴリを読む価値は絶対にある。

ではいってみよう

そろそろ本題に入ろう。まずは僕自身について少し話をしたいと思う。僕が小説家になるまでのいきさつと、なった後の生活と、そして辞めていった理由についてを。

少し昔、あるところに、Aというライトノベル作家がいました――なんて具合に。

次回、「今、小説家になるために必要なもの(2):小説家が小説家を辞める理由は?」につづく