プロ・アマ問わず、小説を書き終えた(あるいは、一区切りと言えるところまで書ききった)小説家は、自分の書いたものを読み返して手直しをする。いわゆる推敲というやつだ。
このエントリでは、推敲の際にチェックすべきポイントと、どう直すか、そのセオリーについて述べてみたいと思う。
目次
推敲の際にチェックすべきポイント
そもそも推敲は何のために行うか。
その作品が読者にとってより良いものになるように、手直しをするのだ。
もちろん、ここでいう読者には作者自身も含まれる。作者自身が読んでいて楽しめない作品なんて、他人が読んで面白いはずがない。
では、作品をより良くする方法とは何だろう。どういう観点で、何を良くすることになるのだろうか。
良くする観点は、大きく以下の二つだ。
- 内容的な観点
- 文章的な観点
それぞれ見ていこう。
内容的な観点
内容的な観点で作品を推敲する、というのはどのようなものか。
端的にいうと、風呂敷をより上手く広げ、そしてその風呂敷をより綺麗に閉じる、ということになる。
抽象的なので分からない? 確かに。では、具体的な話をしてみる。
風呂敷をより上手く広げる
エンタテイメント系の作品で特に顕著なのだけれど、小説では事件は起きてナンボで、謎は湧き上がってナンボなのだ。そしてその事件や謎は、小さいよりかは大きい方が読者の興味を惹く。
近所の駄菓子屋で30円のお菓子が盗まれる事件より、上野の美術館でムンクの「叫び」が多くの観客がいる中で盗まれる、という方が刺激的で魅力的だ。
さらにいうと、「叫び」だけじゃなくて美術館に展示されている全ムンク作品が一瞬で一斉に盗まれる、とした方が刺激的だ。
大きな事件は「どうやってそれをした?」「なぜそれをした?」という謎を生み出しやすいので、それを解き明かすまでの間、読者を引っ張ることができる。
しかし、最初に大きな事件と謎を打ち立てて、その後何百ページもさしたる事件が起きないとなると、やはり読者は飽き飽きしてくる。定期的に刺激的な興味深い事件を起こし続け、読者の興味を引き続ける必要がある。
内容的な推敲をする際には、一定の区切り(例えば節か、最低でも章)ごとに、定期的に事件が起きているか、魅力的な謎が生まれているかをチェックし、起きていなければ事件や謎を物語の中に投入することを考えた方が良い。
風呂敷をより綺麗に閉じる
風呂敷をより上手く広げ、事件や謎を物語の中にふんだんに盛り込んだとしても、それが意外で、かつ納得のいくオチにつながっていなければ、残念な作品に成り下がってしまう。
一番残念なオチは、せっかくだから別エントリとして書くとしよう。(「新人賞に応募しても確実に落ちる作品とは」)
一番残念なオチに代表されるように、手抜きは許されない。
小説家は自分が作り出した事件や謎に対して、意外で、かつ納得感のあるオチをつける必要がある。
例えば、岩木一麻の小説「がん消滅の罠~完全寛解の謎」では、がんに蝕まれた人の体からがんが完全に消えるという謎を作り出し、それに対して意外で、納得のいくオチをつけている。そのオチが何なのかは、作品を読むなりドラマを見るなりしてもらうのが良いだろう。
話を元に戻そう。
では、意外かつ納得感のあるオチをつけるためにはどうすれば良いのか。どうすれば人は納得するのか。
これには二つある。
一つは、伏線を丁寧に、そして周到に張ること。
「小説家はどんなことを考えながら伏線を張っているのか」のエントリの言い方を使えば、トラブル解決型の伏線を張ることだ。
そうすることで、「なるほど、その手を使えば確かに問題は解決する」と読者に思わせることができる。
もう一つは、常識、事実を使うこと。
例えば氷は暖かくなると溶けるとか、鏡は左右反転して像を映すとか、そういう一般的な常識や、一般的でなくとも事実として認められている話を説明に利用することで、オチに説得力を与えることができる。
ちなみに、先に挙げた「がん消滅の罠~完全寛解の謎」は、一般的ではない事実を謎のオチとして利用している。
長くなってしまったが、内容的な推敲をするにあたっては、魅力的な事件、謎が定期的に読者に供給できているか、そしてその事件、謎に対して納得感のあるオチを設けることができているか、を見るべきだろう。
文章的な観点
内容的な推敲をするためには、事件や謎を話に盛り込んだり、オチを変更したり、そのオチに説得性を持たせるために伏線を補強したりと、外科手術的な見直しをする必要があった。
これに対し、文章的な観点の推敲は、化粧や脱毛といったケアに近い。
文章的な観点の推敲をする際にチェックすべきは、以下の三つだ。
- 無駄な/足りない記載があるか
- もっと先に/後ろに出した方が良い記載があるか
- もっと工夫できる記載があるか
これについては、「キミの小説の文章をプロっぽく見せる3つの方法」で記した通りである。
この三つに付け加えることがあるとすれば、「演出」と「矛盾のチェック」だろう。
さて、どういうことか。
演出について
物語の中にアイテムや人物を登場させる時、そのアイテム、人物をセリフや文章で説明するのではなく、アクション・行動をもってして説明するように心がけるべき、ということだ。
例えば、「ドラえもん」のスモールライトの説明をするとしたら、「このライトの光を浴びたものは小さくなるんだ」と言葉を発するのではなく、まずは光を当てて何かを小さくしてみせるべし、ということ。
そうすることで、野暮な言葉の説明がなくなり、物語の中で絵が映える。物語に躍動感が出てきて、退屈と眠気を吹き飛ばす。
演出の話については、「編集者は小説家に対してどんな指摘をするのか」でも少し触れているので、ぜひ合わせて読んでもらいたい。
矛盾のチェック
矛盾のチェックとは、ある登場人物が行なった行為や言った発言が、次の章でなかったことになっていたり、同時刻に別の場所に存在していたりしないかをチェックすることを指す。
要するに物語を現実に置き換えた時、変なところがないかをチェックするのだ。これを行わないと、読者は混乱をしてしまう。自分の作った物語の世界と誠実に向き合うつもりがあるなら、このチェックは入念に行うべきだろう。
群像劇は、視点と場所が切り替わるので、矛盾が生まれやすい。
なので、特に注意が必要だろう。登場人物たちがいつ、どこにいるのかをExcelなどで整理し、各地点間の移動時間などを押さえた上で物語を組み立て、執筆後にはその整理情報と照らし合わせて矛盾がないかをチェックする、ということをした方が良い。
おわりに
推敲をする段階では、究極的には、「読者が次のページを読む理由がそのページにあるか。その問いかけをすべてのページに対して行い、すべてのページで解を出す」ということをすべきだ。
例えば、
- ここにこういう魅力的な謎を記載したので、次のページを読んでもらうことができるはず
- このページに面白い表現を放り込んだ。なので次のページにも気の利いた表現を期待してもらえるはず
- 主人公がピンチになったところで節を変えて別キャラの視点に移した。引っ張っているので次のページ以降を読んでもらうことができるはず
- ここにこういう奇妙な逸話・うんちくを入れた。なので……(略)
- このページにこのキャラとこのキャラのユニークな掛け合いを入れた。なので……(略)
などなど。
極端? まさか。大抵の小説家は無意識のうちにそういうことをしている。
だから、最初は意識的にそういうことをしても良い。いずれ慣れて自然にできるようになる(どこまで上手くできるかは別にしても)。
ともあれ、ここに書いてあることを参考に、キミの作品をより素敵な物語に仕立て上げてもらいたい。
活用されたし。

ライトノベル作家。
商業作家としての名義は「くれあきら」とは別。今は主にブログで小説にまつわるアレコレを配信中。デビューから商業作家時代の話を「今、小説家になるために必要なもの(1)」に書いてます。