キミはベストセラー、つまり売れる小説を書きたいと思ったことはあるだろうか。
僕くれあきらはある。かつて出版社から小説を出していた時は、毎日のように思っていた。売れない小説ではなく、売れる小説を、と。
しかし、残念ながら売れなかった。重版が何度かかかったことはあるが、自分が期待したほどの売れ方ではなかった。プロになることもそれなりに難しいが、売れることはそれより遥かに難しいのだ。
あまりに売れないものだから、売れる小説なんて、狙って書けるとは思えなかった。いくら売れそうな小説だと確信をしても、その小説が売れるかどうかは、実際に市場に出してみないと分からないと思った。
だが、世の中には存在するらしいーー売れる小説に共通して存在する、ベストセラーの鉄則が。
このエントリでは、それについて語ろうと思う。
目次
ベストセラーに共通する鉄則はあるか
ベストセラーには、なんらかの共通点する鉄則はあるのだろうか。
結論から言うと、ある。
ある学者が何万冊もの本をコンピュータで分析した結果、ベストセラーとなる本にはある共通点があることが発覚したのだ。世の中にはそういう面白い研究に心血を注ぐ奇妙な学者もいるわけである。
ただし、断っておくと、これは英語で執筆された本に限った話。僕たち日本人の感覚では異論反論のあるような結果が出ている。しかし、日本の小説にも当てはまることは多々ある。十分参考になると考えていい。
細かいものを含めるとたくさんあるが、大枠はこんな感じだ。
- トピックは少なめ
- サブのトピックはメインのトピックと繋がりのあるもの
- メインで扱うトピックは普遍的なもの
- 取り扱っているトピックが作者の得意領域
- 物語が現実的なもの
詳細は「ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム」に記されているので、興味がある場合には読んでもらいたい。きっと楽しめるはずだ。
では、それぞれ少しずつ解説をしていくとしよう。
トピックは少なめ
多くの売れない本と比較して、ベストセラーは物語の中で取り扱っているトピックの数が少ない。
ここで言うトピックとは、「法廷」であるとか「家族」であるとか、多くの言葉を費やして語られる題材のことを意味する。
ベストセラーとなった小説は、取り扱っているトピックが少なく、売れない小説はトピックが多くなっている傾向が表れていたのだとか。
これは直感的にも理解がしやすい話だろう。法廷での戦いを描いたかと思うと家庭でのいざこざが取り上げられ、しかも主人公の夢である宇宙飛行士になることが語られていて、さらに大規模なトルネードが街を襲ってくる中、テロリストの攻撃によるパニックが発生したら、何に注目すればいいのか全く分からず、その小説を楽しめる気がしない。そういう話だ。
ちなみに、ベストセラーではその総量の1/3をメインのトピックの記載にあてがい、残りの2/3は別のトピックで変化をつける、というおよそのバランスが保たれているらしい。特にベストセラーの冒頭部分では、トピックは明確に少なめに絞っている傾向が見受けられる。
サブのトピックはメインのトピックと繋がりのあるもの
ベストセラーでは、サブのトピックは、メインのトピックと繋がりのある(あるいは、繋がりが想像しやすい)ようなものを配置している。「子供」と「銃」とか、「愛」と「ヴァンパイア」とか。
そう。ベストセラーは、場合によってはトピックを聞いただけで物語の輪郭が掴めるようなものになっている。
売れていない小説は、例えば「セクシュアリティ」と「ガーデニング」のように、トピック同士の繋がりを見出しづらいものがメイントピックとサブトピックにあがる、というわけだ。
メインで扱うトピックは普遍的なもの
トピックについてもう一つ。ベストセラーは読者の心を掴む普遍的なトピックをメインのトピックとして取り扱っている。
例えば、小説家であり弁護士でもあったアメリカのベストセラー作家ジョン・グリシャムの例でいえば、メインのトピックは「法廷」だ。これは、現代アメリカでは法廷がすべての階級の人にとって文化や倫理をめぐる戦いの場であるという現状が、アメリカの人々に「法廷」を普遍的なトピックたらしめていることになる。
もっと分かりやすい例では、「家族」や「愛」だろう。このありきたりで普遍的なトピックは、多くのベストセラーに顔を出す。
つまるところ、人と人との交流や関係というものが、ベストセラーの取り扱っているメイントピックである、ということに他ならない。
「ファッション」や「過激な表現」のような色物のトピックは、ベストセラーにおいては二番手以降に構えているわけだ。
取り扱っているトピックが作者の得意領域
ベストセラーは、取り扱っているトピックが作者の得意領域であることで共通している。
これはどういうことだろう。
具体的に言うと、先のジョン・グリシャム(弁護士の経験あり)が法廷ものの小説を書くことでヒットを飛ばしたり、何度も結婚を繰り返したダニエル・スティールが家庭生活や母親としての役割といったものを小説の中で描き、多額の印税を手にしたりすることを意味している。
要するに、知っていることを書け、ということだ。
物語が現実的なもの
ベストセラーは、基本的にどれも現実世界で起きた物語を描いたものであった。ずばり、「剣や魔法の物語はベストセラーになれない、現実の世界を取り扱うべし。ハリーポッターは例外中の例外!」ということだ。
これには日本の諸君は異論があるに違いない。日本では英語圏の物語に比べてずっとファンタジーや異能力ものが世に蔓延っている。ラノベなんて中学生が悪の組織と異能でバトルを始めてナンボだ。
なんなら一般書籍でもファンタジー要素が混じっているし、それが見事に売れていたり、映画になったりする。日本における漫画やアニメという土壌が、ファンタジー要素を受け入れる下地になっているのだろう。
しかし、ある種の文化圏においては、こうしたファンタジーの要素はあまり受け入れられない。ベストセラーを書く際の一つの指針となるわけだ。
おそらく、日本にもあるはずだ。「こうしたジャンル・要素を含む小説は売れない」という何かが。
最後に
さて、どうだろう。ベストセラーに共通する鉄則を使って、ベストセラーは書けそうだろうか。
繰り返しになるが、ここで語ったのは、あくまでも英語で書かれた小説の話だ。日本と完全に合致するとは限らない。
特に、ハリーポッターのヒットが異例、特別だという考え方は、現実的なトピックが好まれる英語圏ならではの話だ。
とはいえ、日本でも通用する要素もあるだろう。ここにあげたベストセラーの法則を作品に取り入れてみるのも悪くはない。
作品が売れるかどうかはともかく、これらの鉄則は物語を面白く、読みやすくするための鉄則でもあるのだからね。
活用されたし。
ライトノベル作家。
商業作家としての名義は「くれあきら」とは別。今は主にブログで小説にまつわるアレコレを配信中。デビューから商業作家時代の話を「今、小説家になるために必要なもの(1)」に書いてます。