今、小説家になるために必要なもの(9):作家を辞めさせる「悪魔的な力学」の正体

前のエントリでは次回作の企画を通すということについて触れた。ここでは、僕が作家を辞めると決めた「悪魔的な力学」について話をしよう。

(このカテゴリは続きもののため、未読の方はぜひ第一回「今、小説家になるために必要なもの(1)」からどうぞ)

次回作の売れ行きは?

散々苦労して世に送り出した次回作はどうなったのだろう。

結論。次回作の売れ行きは、デビューシリーズよりかはずっと良かった。なにしろ、重版が何度かかかるくらいには売れたのだ。昨今の出版不況を考えると、結構スゴいと思ってもらって良い。

でも、いくら「結構スゴい」とは言え、重版でくれあきらが手にしたお金はトータルで五十万円くらい。「結構スゴい」の正体は、値段にするとかなり貧弱なのだ。

くれあきらは結局この次回作のシリーズを三巻まで書いた。そして四巻を出すか、それとも次のシリーズに移るか、というアイデアを編集者から提示された。

だけど、くれあきらはどちらも選択をしなかった。

「辞めよう」

というわけで、編集者に連絡をして、けりをつけた。

なぜくれあきらは辞めたのか

何故くれあきらはその選択をしたのだろうか。

魂を売って次回作を書いたは良いけれど、言われるままに書いたその作品とキャラクターをいまいち愛することが出来なかったし、仕事だと割り切って書くには収入が少なすぎた。

そのくせスケジュールはタイトで遊ぶどころか眠る時間もろくにないし、いつか一発逆転を狙うにしても、そもそも今、本自体が絶望的なまでに売れていない。可能性なんて無いも同然。

そんな出版不況の中、新シリーズを出すたびに既存の読者を切り捨てるような自分のスタイルに、決定的に未来を感じなかったのである。

このまま続けても、またいずれ自らの作品スタイルを変え、手にした読者を切り捨てる「悪魔のスパイラル」を繰り返すだけだ、そう感じた。

作品を出す→売れない→打ち切り→既存の読者を切り捨てて→新作を出す→凄い大変→売れない→打ち切り……(以下、延々と繰り返し)

魔改造なんて言うけれど

もちろん、手をかえ品をかえて攻めるというのはどうしたって必要だ。改善はなされないといけない。そのために以前の読者を切り捨ててまでモデルチェンジをするという手も、手段としてはあるだろう。

魔改造なんて揶揄されるけれど、考えようによっては自分の担当する作家にヒットをさせてあげたいという、編集者の愛に溢れた措置なのだ。そして、その魔改造で一躍人気作家になった人がいることも事実。

だけど、今の出版不況の中では、魔改造は通用しなくなってきている。今後、一層通じなくなるだろう。

今までの仕組みが通用しなくなっている

いや、通じないのは魔改造ではなくて、既存の小説システムだというべきかもしれない。

新人賞を受賞して、デビューして、人気作家になって、次回作も売れて……もしくは、新人賞を受賞して、デビューして、売れなくて、方向転換をして、人気作家になって……

そんな仕組みがもうとっくに通用しなくなって来ている。何度も方向転換すればいつかヒットする、そんな展望が持てない状況になっているし、賞を受賞すれば注目を集められるという状況も、現時点でかなり怪しくなって来ている。

だから、辞めた。

小説家が戦線離脱する仕組みのおさらい

端折って話をしたけれど、これがくれあきらという小説家が出版社と袂を分かった事の顛末だ。売れない小説家がいかにして戦線離脱するか、お分かりいただけただろうか。

かいつまんで言うと、こんな感じだ。

  • 次回作をなかなか出せない→ 結果、諦める
  • 出せたとしても「悪魔のスパイラル」が見える→ 続ける価値はないと考え、辞める

脱落するタイミングは企画提出の段階か、それとも次回作の発売後か、それはひとそれだろう。だけど、この一連のスパイラルが、作家を市場から撤退させる。

売上げが右肩上がりの市場ならそれでも良かったかもしれない。スタイルチェンジが通用していた。

しかし、今は本が売れない時代。ニューカマーの作家がどんな本を書いても、ちょっとやそっとでは売れない。内容の良し悪しに関わらず、だ。

では、なぜ今、本は売れないのか。そのあたりに触れてみよう。

次回、「今、小説家になるために必要なもの(10):本が売れない理由は?」につづく