今、小説家になるために必要なもの(6):二巻以降をどう書くか

前のエントリでは、入稿に際して、小説家がどんな作業をするのかについて触れた。ここでは二巻を書くにあたっての話について触れたい。

(このカテゴリは続きもののため、未読の方はぜひ第一回「今、小説家になるために必要なもの(1)」からどうぞ)

「二巻」ってどうやって書くの?

入稿、キャラ表作成、あとがき執筆、初校チェックに再校チェックを終える頃には、完全に搾りカスみたいな状態になっていた。

なにしろこの執筆期間中、フルタイムで働いている上に、土日も朝から晩までずっとPCに向かい、ほとんど家にも帰ることができず、眠るどころか食事の時間さえ惜しいくらいだったのだから。

自分で選んだとはいえ、しんどいものはどうしたってしんどい。しかし、次の作品があるので休んでいるわけにはいかない。二巻目だ。一応、プロットはある程度決まっているので、とりあえず書き進められる……

と思いきや、ここで大きな問題が一つ。

くれあきらは思う。

「……二巻って一体どうやって書くんだ?」

そもそもこのくれあきらという人物、小説に関してど素人なだけに、二巻というものをどう書いていいのか皆目検討がついていなかった。

ライトノベルの読者であれば二巻という概念はなじみがあるものだろうけれど、一般書籍にしか触れていないような人間にはシリーズ展開の勘所が全く分かっていない。二巻の書き出しをどうすればいいのかさえ手探りだった。

やばい。というわけで手当り次第にライトノベルの二巻をブックオフで買いあさり、二巻の肝を押さえるべく勉強を開始。

僕の作品の二巻が市場に出るのは一巻の発売の三ヶ月後。この段階で一巻発売まで残り三ヶ月だから、二巻の発売までは六ヶ月ある。だけど、入稿は発売の三ヶ月前に済ませる必要があるので、二巻の入稿は三ヶ月後。くれあきらにとって、決して長いとは言えない期間だ。

とにかく手を動かさないと、というわけで付け焼き刃の勉強をしながら二巻の執筆を開始した。

二巻の書き方

さて、二巻を書くにあたっての注意事項とは一体なんだろう。

僕が思うに、ポイントは二つ。

  • ポイント1:ストーリーの展開パターンをどうするか
  • ポイント2:冒頭のテクニック

それぞれについて、説明をしよう。

ポイント1:ストーリーの展開パターンをどうするか

ストーリーの展開パターンをどうするか、とはどういうことだろう。単純に言えば、二巻でどう話を進めますか、ということだ。

具体的には大体以下のパターンが考えられる。

  1. インフレ型。主人公に新しい(一巻の時よりもより強い)敵をぶつけ、強さのインフレを引き起こすパターン。
  2. 別視点型。別のキャラクターを主人公にするパターン。
  3. ひな形再利用型。一巻目をテンプレートとして、二巻目も同じ基本スタイルを踏襲するパターン。

二巻を書く際には、基本的に1、2、3の一つ、もしくは複数を組み合わせて使って書くこととなる。

そして、どのパターンを使うにせよ、主人公を取り巻く人間関係は、一般的に巻を追うごとに変化していくようにさせるのが王道だろう。

最初は仲が悪かった主人公とライバルが、イベントを重ねるごとに心を開いて認め合っていく、もしくは主人公とヒロインがイベントをきっかけに徐々に惹かれあっていく、といったスタイルだ。

人間関係を変化させない場合、「サザエさん」や「水戸黄門」や「アンパンマン」のような、長寿のレジェンド級コンテンツの様相を帯びる。物語を終わらせない一番確実な手段は、登場人物たちの関係性を変化させないこと。これに尽きる。

「サザエさん」や「水戸黄門」レベルの長寿のレジェンドコンテンツを作りたいのであれば、人間関係を変化させないようにする方が良いのだろうけれど、そうでないなら人間関係の変化を織り交ぜておいた方が良い。

というか、「サザエさん」を作ることを許容する編集者も少ないだろうから、出版社から本を出す限りにおいては、長期的に人間関係の変化がない物語を作ることはおそらく難しい。

僕はといえば、プロットの段階で編集者から「二巻ではより強大な敵(やピンチ)が主人公たちの身に降りかかるような話の展開にしてください」と言われていた。つまり、ここでいう「1.インフレ型」にあたるものがオーダーとして与えられていた。

だからあまりこれについて悩むことはなかったけれど、本気で考えていたとしたらかなり悩んだだろう。一体、二巻にはどういうパターンの物語が求められるのか、と。

ポイント2:冒頭のテクニック

次に、冒頭のテクニックの話をしよう。使用すべきテクニックは三つだ。

  • キャラクターの特徴を思い出させる
  • 設定を思い出させる
  • 一巻での結末に軽く触れる

一つ一つ解説していこう。

キャラクターの特徴を思い出させる

二巻を出すということは、当然一巻が出ていることになる。そして二巻を買う読者は基本的に一巻を読んでいるはずだ。

だけど、本が出るのは三ヶ月後とか半年後なので読者はキャラクターの名前や性格を忘れている可能性がある。というか、忘れているものと考えておいた方が良い。

だから、主要な登場人物を二巻で出す際には、最初にそのキャラクターの特徴を示せるようなシーンを設置して軽くおさらい(リマインド)をする、というのが通例のパターン。

例えば一巻で出て来たバカなキャラクターを二巻で出す場合、最初にバカな行為をする登場をさせることで「ああ、こいつは一巻でも出て来たバカなキャラクターだ」と思い出せる。

設定を思い出させる

物語に必要な設定についても同じだ。さらりと触れておく必要がある。

例えば押し入れに猫型ロボットがいるという設定なら、「うちの押し入れには未来から来た猫型ロボットがいる。先月、ちょっと面白い事件があって、それを機にうちに住み着くようになったのだ」とか。

その時、ある程度しっかり思い出せるレベルのリマインドキーワードを入れておくべきだろう。

一巻での結末に軽く触れる

最後に、一巻での結末を入れておくという点について。これは例えば「先月、色々な事件があって主人公は大けがをしたけれど、その後無事に怪我もなおった」みたいな話を入れておくということ。前の巻の設定を全部覚えているにしても、つなぎは必要だ、という話。

ただし、前巻におけるミステリー的なオチ(「犯人は誰それ!」とか)については、可能な限り明らかにしない方が良い。間違って二巻から読む人もいる。

二巻の書き方まとめ

三巻目以降も同じくリマインドは必要だけれど、徐々に減らしても良い。そこまでついて来てくれている読者なら、前提やキャラクターの詳細は、ある程度は承知の上だろう。

いちいち丁寧にリマインドをするよりも、本編にページを割いた方が読者としては嬉しい。どれから読んでも大丈夫なシリーズ物の本なら、毎回二巻程度のリマインドを設けても良い。

というわけで、続き物を書くにあたっての注意事項は二つ。展開パターンと冒頭だ。

書かれる方は参考にされたし。

二巻執筆と並行して一巻の発売

ちょっと脇道に逸れたので話を元に戻そう。そんなこんなで二巻の執筆を急ピッチで進める裏側で、一巻目が発売されるのだが……

次回、「今、小説家になるために必要なもの(7):作品が打ち切られる基準は?」につづく