今、小説家になるために必要なもの(12):売れている本はなぜ売れている?

今、本は売れていない。中の人間たち、つまり出版業界の人たちにも、その自覚はある。1996年をピークに、出版業界の売り上げは右肩下がりで、今もなおとどまるところを知らない。そんな悲惨な現状を、先のエントリで触れた。

簡単に言えば、小説よりも魅力があるものにお金と時間を使うようになった、という話だったかと思う。

ここでは、そんな世の中であるにもかかわらず売れている本とはどんなものなのか、それを見ていきたい。

(このカテゴリは続きもののため、未読の方はぜひ第一回「今、小説家になるために必要なもの(1)」からどうぞ)

ここ10年くらいの売れ筋小説

昨今のご時世で売れている小説のラインナップを、少しさかのぼって並べてみよう。書籍取次販売の大手、株式会社トーハンのサイトの情報によると、こんな感じだ。

2008年

  • ハリー・ポッターと死の秘宝 J.K.ローリング
  • 流星の絆 東野圭吾

2009年

  • 1Q84 (1・2) 村上春樹
  • 告白 湊かなえ

2010年

  • 1Q84 (3) 村上春樹
  • 天地明察 冲方丁

2011年

  • 謎解きはディナーのあとで 東川篤哉
  • KAGEROU 齋藤智裕
  • 謎解きはディナーのあとで(2) 東川篤哉

2012年

  • 舟を編む 三浦しをん
  • 謎解きはディナーのあとで謎解きはディナーのあとで(2) 東川篤哉

2013年

  • 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹
  • 海賊とよばれた男(上・下) 百田尚樹
  • ロスジェネの逆襲 池井戸潤
  • ホテルローヤル 桜木紫乃
  • 謎解きはディナーのあとで(3) 東川篤哉

2014年

  • 村上海賊の娘(上・下) 和田竜
  • 銀翼のイカロス 池井戸潤
  • 女のいない男たち 村上春樹

2015年

  • 火花 又吉直樹
  • 鹿の王(上・下) 上橋菜穂子
  • サラバ!(上・下) 西加奈子
  • ラプラスの魔女 東野圭吾

2016年

  • ハリー・ポッターと呪いの子第一部・第二部〈特別リハーサル版〉 J.K.ローリング、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーン
  • 君の膵臓をたべたい 住野よる
  • 羊と鋼の森 宮下奈都
  • コンビニ人間 村田沙耶香
  • 火花 又吉直樹
  • また、同じ夢を見ていた 住野よる
  • コーヒーが冷めないうちに 川口俊和

2017年

  • 蜜蜂と遠雷 恩田陸
  • 騎士団長殺し  第1部顕れるイデア編  第2部遷ろうメタファー編 村上春樹
  • ハリー・ポッターと呪いの子第一部・第二部〈特別リハーサル版〉 J.K.ローリング、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーン
  • コーヒーが冷めないうちに 川口俊和
  • 君の膵臓をたべたい 住野よる
  • 劇場 又吉直樹
  • か「」く「」し「」ご「」と「 住野よる

トーハン調べ

http://www.tohan.jp/bestsellers/past.html

売れている本の特徴

上記は、【総合】の分野で名前が挙がった文芸書をリストアップした結果だ。どうだろう。このラインナップを見て、何か気づいただろうか。

村上春樹とJ.K.ローリングと東川篤哉が多い?

最近は住野よると又吉直樹が多い?

その通り。ランキングの上位者は大御所の常連作家がズラリと並んでいる。当たり前だけれど非常に重要なポイントだ。

というのも、えてして作家や編集者は、書籍の売り上げランキングから、売れている作品の内容の傾向や、売れている作品のモチーフを見出そうとする。

確かに、世の中の流行りというものはある。コージーミステリーや異世界転生ものなんて最たる例だ。

だけど、本当に売れている本の特徴は、ご覧の通り、内容よりも作家の名前に顕著に現れる。

上に記したランキングは文庫を含んでいないけれど、文庫を含んだところで結論は同じだ。売れるものは、その内容ではなく作家の名前に依存する。

一発大きく当たった作家たちも多数存在する。偶発ヒットは、毎年幾らかは生まれる。だけど、それはあくまでもノイズにすぎない。そしてそのノイズにあまりに頼り過ぎていることが出版業界の闇だ。

もちろん、こうした偶発性のヒットが一人の新人を大御所にのし上げてきていたこともまた事実としてある。

だけど今の世の中、そうした紛れ当たりを期待するには、本は売れなくなりすぎ、メディアは力を失いすぎた。残念ながら、もはやメディアにかつての集客力はない。

売れている作家が売れている理由

そんな中、売れている作家たちは他の作家と何が違うのか。

単純明快だ。

それをどうやって取得したかにせよ、売れている作家には固定客がいる。

つまり、ファンがいる。

大御所の面々はその長いキャリアの中で、少しずつあるいは時に一気に読者を獲得した。

昨今出てきた売れ筋作家(ホープ)は、代表的なスタイルとしてはWeb上で自作を無料公開し、読者とネット上で密接につながることで、比較的短期間でファンを集めている。

場合によっては、ファンのコメントを参考にしたり、ファンの意見を取り込んだりすることで、より読者にとって好ましい作品にする努力をしたりもする。

大御所とホープ、手法と規模の違いはあっても、本質的な差はない。彼らが成功しているといえる拠り所は、自作を気に入った上で読んでくれる人を、つまりファンを、一定量確保している点にある。

さて、ここにきて冒頭で言った謎を繰り返そう。

デビューを目指すキミたちにもっとも必要なのは、□□□である

もう、□□□に入る答えはわかっただろう。次のエントリで答え合わせだ。

次回、「今、小説家になるために必要なもの(13):キミがデビューをするのに必要なものは」につづく