今、小説家になるために必要なもの(8):企画を通す方法とは?

前のエントリでは、打ち切りについて触れた。ここでは次回作の企画を通すということについて触れたい。

(このカテゴリは続きもののため、未読の方はぜひ第一回「今、小説家になるために必要なもの(1)」からどうぞ)

企画を通すとはどういうことか

「次回作に取りかかりましょう」と編集者と話をしてから、くれあきらは定期的に編集者に次回作の企画を提出し続けた。ここで出す企画は大体200文字程度の簡単なもので、ペースは大体二週間に一回くらい。一回に出すネタは三、四個くらいだろうか。

くれあきらが出した企画のうち、編集者が興味を示したものがあれば、「これもう少し細かく考えてみてください」と言われ、それをうけてくれあきらは詳細を練る。

どのくらいのレベル感のものかというと、例えば四話構成の短編連作ミステリーなら、それぞれの話で出て来る「謎」と「回答(オチ)」をざっと書く程度、と思ってもらえれば良いだろう。

小説家生活の中で、この時期が一番歯がゆかった。

なぜか。

企画が全く通らないからだ。

「これ、面白そうですね」という編集者の話を受けて「では詳細を考えてみましょう」と詳細のプロットを出しても、結局はボツになる。

ボツの理由としては、

「やっぱりこれは受けそうにない」

「やっぱりくれあきらさんはこういうものじゃなくて××(具体的な作品名)みたいな渋い感じの作品向きかと」

みたいな感じ。全然GOが出ない。

出しては差し戻し、出しては差し戻し。

悪いことは重なるもので

それに輪をかけるように、具合が悪い出来事が起こった。編集者からのレスポンスは遅くなっていったのだ。

最初の頃は一週間以内に返答を返してくれていたものの、編集者からの返信は徐々に遅れがちになり、それがやがて二週間、三週間、一ヶ月、一ヶ月半……と伸びていった。要するに放置気味である。

まずい。忘れ去られている。

せっかく本を書く機会を手に入れたわけだし、それに次回作は少なくとももう少しまともな売上げにできるはず、と意気込んでいたくれあきらは、大分焦った。このまま切られてしまうと。

このままでは、今まで企画を出し続けて来た苦労が水の泡だ。これはまずすぎる。なので、とりあえず企画だけは出し続けた。

企画が立ち上がりそうになる日

そんな先の見えない日々が半年以上続いたある日、編集者から連絡が来た。

「くれあきらさん、○○が好きだって言っていましたよね、それやってみませんか?」

ちなみに、この○○に入るのは、「旅行」や「料理」や「ゲーム」や「サッカー」といった趣味だと思ってもらえば良い。あるいは「うなじ」とか「くるぶし」とかでも良いけど。

とりあえず、くれあきらが考えもしなかったネタだったことだけは確かだ。でも、書けるのであれば正直何でも良かった。

何度も繰り返して

とりあえず編集者から出て来たそのネタをテーマに、またまた企画をいくつか提出することになった。ある意味振り出しに戻るなのだけれど、今回は編集者から明確にテーマが来ている分、編集者側のモチベーションも上がっている。ここで一気に畳み掛けるべしと、くれあきらはいつも以上に張り切って企画を提出。

後日、「いただいたい企画の中にあるこの案ですけど、もう少し詳細を考えてみてもらえますか?」と連絡を受けたくれあきらは、詳細を書いて提出。で、「やっぱり違う」と連絡を受けては、別のアイデアで攻めてみて……

そんなこんなをこれまた何ヶ月も繰り返して、どうにかこうにかGOが出た頃には、次回作の企画開始からもうかれこれ一年以上経った頃だった。やっぱり心身ともにヘロヘロ。書く前から満身創痍だ。

でもこれでようやく物語を書く事が出来る。

踏み絵を踏めますか?

晴れて企画が通った段階で、編集者と打ち合わせをかねた食事会。そこでこんなことを言われた。

「前作とは全く毛色が違うから、今までのファンを切り捨てる覚悟が必要ですけど、良いですか」

確かにその通り。前作は少年少女が好むような物語ではなかった。それでもあの物語を気に入ってくれた人はいた。中にはブログのプロフィールに好きな作家として僕の名前を記してくれた熱烈な読者もいた。

けれど今回の物語は、およそ前作とはまったく違う。くれあきらの前作品を気に入ってくれた人たちは、今回の作品を受け入れてくれるかというと、絶対にNoだった。世間一般では、「魔改造」を受けたと取られるパターンに見事にハマっているわけ。

魔改造というのは、元々書いていたスタイルを捨てて、売れるだろうスタイルに切り替える、というもの。例えばシリアスな小説を書いていたのに次回作でバキバキに萌えラノベを書いたりすると、「魔改造された」と言われたりする。

しかし、後に引く事は出来ない。というわけでくれあきらはためらいも無く答えた。

「イエス」

これでようやく今までの苦労が報われる。売れる要素も自分なりに考えて練り込んだ。前作の二の舞にはならないだろう。魔改造だとしても、それで売れるなら望むところだ。

作品のテーマに興味があろうがなかろうが、仕事と割り切ればどうにでもなるはずだ。

さて、いってみよう。

なんて気合いをいれて次回作の執筆へと取りかかった。

果たして、今回は売れるだろうか。

次回、「今、小説家になるために必要なもの(9):作家を辞めさせる「悪魔的な力学」の正体」につづく